東京地方裁判所 平成4年(レ)28号 判決 1992年11月12日
控訴人
有限会社オートサロンミヤモト
右代表者代表取締役
宮本淳
右訴訟代理人弁護士
伊礼勇吉
同
宮﨑孝
被控訴人
麻田洋平
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第二事案の概要
本件は、被控訴人が、控訴人から解雇予告手当の提供を受けないで即時解雇されたと主張して、控訴人に対し、未払賃金二万七〇〇〇円及び解雇予告手当二五万円の合計二七万七〇〇〇円の支払を求めた事案である。
一 基礎となる事実関係
1 被控訴人は、控訴人との間で、平成三年三月一六日、毎月末日締め月給二五万円の約定で雇用契約を締結し、これに基づき、右同日から同月三〇日までの間、控訴人の東京支店において勤務した(当事者間に争いがない)。
2 控訴人は、被控訴人に対し、同月一六日から同月三〇日までの一五日分の被控訴人の賃金のうち、一二日分の賃金として九万六〇〇〇円を支払ったに過ぎなかった(人証略)。
3 被控訴人は、控訴人に対し、未払残賃金二万七〇〇〇円及び解雇予告手当二五万円並びにこれらに対する遅滞後の平成三年三月三一日(弁済期日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める本件訴えを提起したところ、控訴人は、当審において、未払残賃金二万七〇〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払義務のあることを認めた。
二 争点
控訴人が被控訴人に対し解雇の意思表示をしたか。
1 (被控訴人の主張)控訴人は、被控訴人に対し、同月三〇日、解雇予告手当の提供をしないで、同日限り被控訴人を解雇する旨の意思表示をした。
2 (控訴人の主張)控訴人は、被控訴人に対して解雇通告をしたことはない。すなわち、控訴人の名古屋本店店長藤田光文(以下、「藤田」という。)が、控訴人東京支店に勤務していた被控訴人に対し、同人が名古屋本店に出張してきた折りに、名古屋本店への転勤を打診したところ、被控訴人は、これを拒んだうえ、翌日から出社しなくなったものであって、任意に退職したものにほかならない。
第三争点に対する判断
一 (証拠・人証略)及び被控訴人本人尋問の結果によると、つぎの事実を認めることができる。
1 控訴人は、外車の中古車、新車の販売を主たる業とする有限会社であり、名古屋市に本店を置き、東京都世田谷区に支店を有し、従業員数は約一〇名で、そのうち東京支店に四、五名が配属されており、社長も主に東京支店で執務していたところ、平成三年三月頃、東京都において従業員を就職雑誌で募集し、同月一六日、被控訴人他三、四名を採用し、うち一名を名古屋本店に配置し、被控訴人を含めその他を希望に従って東京支店に配置した。当時、控訴人では名古屋本店で従業員を募集しても応募する者が少なく、東京支店における従業員の募集に応じる者が多かったため、東京支店における従業員数に余裕がある反面、名古屋本店には従業員が不足がちであった。
2 被控訴人は、控訴人に就職した後、東京支店において、電話番、顧客の車庫証明の取得手続代行、名古屋本店と東京支店間の在庫車の入替運行、修理工場への車の運搬、車のワックスがけ等の仕事に従事していた。控訴人においては、本店、支店間の車の入替えにあたっては、実際に従業員に商品である自家用車を運転させて移動させていたが、被控訴人は、本店支店間の車の入替えの際に、控訴人の事前の承諾なく、途中で静岡の実家に立ち寄ったことがあったり、また、名古屋市に赴いたときは、名古屋本店において修理屋への車の運搬等の仕事に従事した際、片道三〇分位のところを往復で六時間位かけることもあった。このような事情及び被控訴人が無口で勤務態度が良くなかったこともあって、控訴人代表者及び藤田は、被控訴人の働き振りに不満をもっていた。
3 控訴人は、平成三年三月二八日、被控訴人に対し、商品である自家用車を東京支店から名古屋本店へ移動することを命じ、被控訴人は、同車を運転して、同日、名古屋本店に赴いた。控訴人東京支店の従業員が車の入替えで名古屋本店に赴いたときは、その日あるいは翌日には東京支店へ戻るのが通常であったところ、このときは、被控訴人は、同月三〇日まで、藤田から命じられて名古屋本店において修理工場への車の運搬等の業務に従事したが、このことについてその間に被控訴人が藤田に不満を訴えていたところ、藤田は、予め控訴人代表者の意を受けて、右同日、被控訴人に対し東京支店から名古屋本店への転勤を打診した。しかし、被控訴人の同意は得られなかった。そこで藤田は、直ちに控訴人代表者と電話で連絡をとり、同代表者の指示に基づき、被控訴人に対し、同月二七日締めで計算された給料支払明細書と現金九万六〇〇〇円の入った封筒及び東京までの交通費一万円を交付し、同日までの賃金を精算することにした。
二 以上の事実関係と被控訴人の主張に沿う当審被控訴人本人尋問の結果を照らし合せると、控訴人は、被控訴人の働き振りに不満を持ち、被控訴人を名古屋本店に転勤させようと考え、平成三年三月二八日、名古屋本店に被控訴人を出張させて様子を見たが、被控訴人が転勤を了承しなかったため、その際には同人を解雇すべく準備した給料支払明細書と精算賃金を交付したうえで解雇の意思表示をしたものと推認することができ、被控訴人が東京支店から名古屋本店への転勤を嫌って自ら退職の申込みをしたとする当審証人藤田光文の供述はにわかに措信できず、他に前記認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
三 よって、被控訴人の請求を全部認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 坂本宗一 裁判官 塩田直也)